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報酬

2012年6月16日 21:47

今回のブログは,依頼者の了承を頂いております。

 

先日,とある刑事事件の国選弁護事件を担当しました。

私はその日の当番であったため,国選弁護人に選任されました。

依頼者は逮捕→勾留され,警察署に留置されていました。

ある事件を犯したと疑われており,検察・警察が捜査をしています。

証拠が固まれば依頼者は起訴され,刑事裁判の場で裁かれることになります。

 

初めて警察署の留置場で依頼者に会ったとき,「この人はやってない」と確信しました。

人によっては罪を逃れるために事実とは異なることを話す方もいるのですが,

「全く身に覚えがない」とうなだれながら語る依頼者の言葉に嘘はありませんでした。

依頼者はある事件に巻き込まれた結果,事件を起こしたと疑われているという状況でした。

 

しかしながら,何の根拠もなく逮捕勾留されるわけはありません。

依頼者に不利な証拠ばかり出てきて,有利な証拠は全くありませんでした。

第三者からみれば,依頼者が罪を犯したと思われてもやむを得ない状況でした。

「起訴」されて刑事裁判になったら,証拠関係から有罪になってしまう可能性が極めて高いと感じました。

焦りました。私の力不足のために無実の人が有罪になってしまいます。

私の他に依頼者の無実を信じていたのは,依頼者の恋人の方だけでした。

 

弁護活動の過程で,ある証拠を入手しました。

決定的な証拠ではありませんが,他に手段がありません。ダメ元で提出しました。

効果は・・・・・

 

ありませんでした。

捜査機関はその証拠には全く触れないまま,依頼者の取り調べをすすめました。

唯一の「切り札」でしたが,空振りに終わりました。

 

私も依頼者も,起訴は免れないと諦めました。

日本の刑事裁判の有罪率は99%以上と言われています。正直なところ「起訴されたら終わりだ」と感じていました。

状況からして実刑になってしまうでしょう。

私は依頼者に対し,「起訴されても絶対に無罪を勝ち取ります。」と約束しましたが,

その言葉に力はありませんでした。

そして,起訴されるべき日がやってきました。

 

嫌疑不十分で不起訴となりました。依頼者は釈放されました。刑事裁判にはなりません。

どうやら,最終的には空振りと思っていた「切り札」が決め手になったようです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

起訴された後の準備を始めていた私は,予想外の結果に頭がついていかず放心していました。

しばらくして,依頼者の方を護れたことに気づきました。

依頼者から恐縮するほどの感謝の言葉を頂き,その日のうちに依頼者は自宅に帰ることができました。

 

数日後,事務所に出勤すると留守電が入っていました。依頼者の恋人の方からでした。

留守電の内容は以下の通りです。

 

「先生,○○(依頼者)の件では本当にお世話になりました。

 先生のお陰で幸せな日常に戻ることができました。

 (・・・・ほら,あなたもお礼を言って。え?留守電じゃ恥ずかしいの?)

 ○○が恥ずかしがっていますが,またお電話しますね。

 それから,○○と入籍することにしました。これも先生のお陰です。」

  

弁護士という仕事は,ドラマのように格好の良いものではありません。

泥水の中を這いずり回るような日々もあります。

悪意に真っ向から立ち向かい消耗することもあります。

人の人生そのものを背負った仕事といっても過言ではないので,当然といえば当然です。

 

それでもこの仕事を続けていられるのは,どんなに大変でも,

依頼者の笑顔というかけがえのない「報酬」を頂けるからです。

 

依頼者の恋人からの留守電を聞きながら,いつの間にか私は涙ぐんでいました。

自分が弁護士になった意味を再確認できました。

困難を前に心が折れそうになっても,絶望という名の崖っぷちに追い込まれても,

この留守電が私を奮い立たせてくれるでしょう。何度でも立ち上がります。

 

私のかけがえのない大切な「報酬」です。

 

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埼玉県さいたま市南区の弁護士事務所

武蔵浦和法律事務所 峯岸孝浩